『大河の一滴』
五木寛之著/幻冬舎刊/定価1,429円(税別)

 この本は、なにも特別なことを表現しているわけではない。我々が生きる中で確かに感じていることを、ありのままに表現しているだけである。だからこそ多くの人が共感を覚えるのだろう。この本を特別に感じたり、五木氏ならではの「人生論」と感じてしまうのは、自分自身が普段から経験している感情や実感の中で、無意識のうちに切り捨てたり、目を背けている部分があるからなのではないだろうか。こんなことは考えてもしょうがない、こんなふうに考えても暗くなるばかりだ、もっと明るく考えよう、気持ちの問題だから、などと無理矢理こころの奥底へ押し込めて未消化にしている部分。氏は、我々がマイナス思考とか、暗いとか表現するそんな部分を、飾らずにに表現しているのである。

 一般には、努力・成功・健康・プラス思考など、華やかな面にのみ生きる意味が語られ、それが実現できない人生は価値がないように表現される。しかしマイナスの極限まで向き合った氏は、どんな人生であろうと、どんな状況であろうと「人はみな大河の一滴」なのだと語る。大きな流れの中で確かに輝く一滴。それは、今はやりの「人生論」のような大河の渡り方ではなく、思い通りにならない大河と真正面から向かい合ってこそ見えてくる、大河のぬくもりと、そこに包まれているありのままの自分を飾らずに表現したものであり、そのあまりにもの当たり前さが、読者に驚きと確かな生命について考える時をもたらすのだろう。ぜひご一読を。