『こころを育てる─私の「人間科」授業─』
八ッ塚 実著/光雲社刊定価1,600円

 大相撲の番付表、イソップ物語、悩性マヒの詩人のタイプライター、「公募ガイド」という雑誌、郷土人形などなど、これらの物を小わきに抱えて、ニコニコと教壇に向かう先生。それが本書の著者である。福山の公立中学校で理科の教師であったころから、単に学力の向上だけでなく、人間として最も大切な豊かな心の成長を目的とした授業に取り組んできた。生徒達は薄っぺらな知識に振り回されるのではなく、教師の提供する一風変わった教材に目を輝かす。そこで繰り広げられる光景はまさに「人間科」という名にふさわしい。子供達が人間に生まれた喜びを感じる場となっている。

 本書は著者が公立中学校退職後も続けてきた「人間科」授業の講義録である。八十にも及ぶ講義は、受験に勝ち残る学力だけが人間に必要なものではないということ、また本当の勉強とは利害打算とは無縁のものだということを伝えている。そして情報化社会の真っ只中で、それに振り回されている愚かな私達自身を映し出すのだ。「人間科」とは「どう生きる科」であり、「それでもお前は人間科」という問いかけなのである。