『他 力』
五木寛之著/講談社刊/定価1,500円

 他力という言葉ぐらい誤解され、誤用されている仏教用語はないでしょう。しかし、他力とは人の力をあてにして楽をするという意味ではありません。私たちのいのちをいのちたらしめているハタラキのことを指しているのです。考えてみると、私たちは自分の意志で生まれてきたわけではありません。自分で体や心をつくったわけでもありません。人間の知識とか認識を越えた、私たちがはかり知ることができない大きなハタラキによって私たちはいのちを恵まれ、生きていくのに必要な空気や水をはじめとするあらゆるものを与えられ、それらを活用する知恵までも与えられて、生かされて生きているのです。決して自分に力があるから、自分が偉いから生きているのではないのです。そのことを親鸞聖人は「他力」といわれました。自力に対する言葉が他力ではないのです。自力とは「我あり、我がものあり、我が力あり」と自己にとらわれる間違いということです。

 当代随一の人気作家・五木寛之氏の『他力』は、仏教的・真宗的視座から現代の世相を見つめたエッセイ集です。見開き2ページが1話となって、100の話が珠玉のような言葉でつづられています。ある人が、「五木寛之は、作家の姿をしたお坊さんだね」と言いましたが、けだし名言です。今、もっともたくみに真宗を語ることができる人かもしれません。一読をお勧めします。