「ダイバダッタ(提婆達多)」

 ダイバダッタは釈迦族出身の仏弟子でありながら、反逆者の烙印を押された人物です。彼はアジャセ王子と共謀して「王舎城の悲劇」を起しました。そして、釈尊を殺害して教団を奪おうとした大罪人で、死後、地獄に堕ちたといわれています。

 でも、彼は本当に仏典が伝えるような悪人だったのでしょうか。七世紀にインドに行った西遊記の主人公として知られる三蔵法師・玄奘(げんじょう)は、ダイバダッタの系統をひいた教団がインドにあったと記録に残しています。ダイバダッタが極悪人だったら、その門下が千年以上もの間にわたって栄えることがあるでしょうか。実際のところ、ダイバダッタはきわめて生真面目で自分に厳しい人だったようで、沙門(しゃもん)といわれた当時の修行者の、文字通り「出家」の生活を仏教の僧侶も守るべきだと信じていたのです。ところが、仏教教団の生活は、最初期の一カ所に定住しない遊行(ゆぎょう)の生活から、僧院に定住する生活に変わってゆきました。こうした変化に厳格主義者だったダイバダッタは堪えられず、教団改革の提案から分派活動へと発展していったと考えられます。だから、現在まで伝承されてきた「主流派」の正統仏教教団から、さまざまな不都合を一身におしつけられてきたのでしょう。

 親鸞聖人は、『観経』に描かれたダイバダッタの姿を、人間の五逆のありさまを示すもの、と見てゆかれました。

【五逆】人倫や仏道に逆らう五種の極悪罪。犯せば無間地獄に墜ちるとされる。